不寛容な正義

   

 ネット社会です。

 その人の背景も考えないで、思ったまま感情的に動く不寛容な時代です。しかし、自分が「正しい」と感じて行動したことが、誰かを傷つけてしまうこともあるのです。

 今回の「煽り運転殴打事件」も、加害者の男性は、自分が追い越されたあげく、向こうの車が接触したから殴ったと語っています。同乗していた女性も、相手は危険な運転だったので、その運転していた若者に、大人の教育として「痛い思いをさせるべき」と、加害者男性が暴力をふるうのを横で見て容認していたと語ったそうです。だから、このカップルは、自分たちが悪いと心から思ってはいません。

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 今回の事件で同乗していた女性を、別の女性と勘違いし、間違った人を同乗者と拡散したネットの人びとも、自分は正しいことをしていると「正義の心」で拡散したのです。これに共通するのも「正義の心」です。

IMG_0378 親に「愛されなかった。愛されなかった。」と、いつも親を怨んで攻撃を続ける人がいます。幼い私に冷たくした親に、鉄槌を加えるつもりで、今後も恨んでいくのだとカウンセラーに怒りを吐き続ける…その怒りも相談者は正義だと思っています。本人も生きるのが辛そうだ。「怒り」から離れれば「人生は好転するのに…」と思いながらカウンセリングを続ける。

 近隣の子どもが「うるさい💢」とか「躾がなっていない💢」と大声で怒鳴ったり、人に嫌がらせをして、あの人は「変わり者」と、ご近所で言われるトラブルメーカーの人も、インタビューすると「自分はこの町のルールを守っている」と平然と答えます。

 ガンと戦っている女優さんに嫌がらせメールを送り続けた人が「名誉毀損」で最近逮捕された。犯人の女性は、誰かが、その女優を批判していた投稿を見て「怪しい💢」と思って「私は正義のつもりでやった!私だけではない。なんで私だけ逮捕されるのか💢」と捜査関係者を呆れさせたという。

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 恐ろしいのは「自分は正しいことをやっている!」と信じ込んでいることです。

 このような人達の怒りには、「ドーパミン」という脳内麻薬が影響していると、脳科学では言われています。

 つまり、自分独自の「制裁」をやっている時だけに、「制裁者」は快感を得るため、「正義の制裁」は中毒になり依存しやすい。やがて大脳の前頭葉連合野のブレーキが効かなくなり、その瞬間だけに「生きがい」を感じるようになります。ですから「制裁」に時間をどれだけかけても、本人自身は疲れません。やがて身体は蝕まれていく。

 ですから、今回の「煽り運転殴打事件」の加害者も多くの道路で、自分から「煽り」を誘発させて「煽られたから💢」と、ゆがんだ「正義の鉄拳」を加えていたようです。だから、逮捕されるまで自分の考える正義の中でのワクワクに心が圧倒され制御ができなかったのでしょう。

 これを裏づけるものとして、心理学では、イエール大学のスタンレー・ミルグラムの実験が有名です。

 この実験では、最初に「記憶力についての実験」と名づけて、多くのボランティアや学生が集められました。そして、「教授」「教授の助手」「実験を受ける被験者」の3名が1グループになって実験を実施しますが、「教授の助手」は実験を重ねるごとに入れ替わっていきます。最初に集められた多くのボランティアや学生は「教授の助手」役を担います。

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 そして、実は「実験を受ける被験者」は雇われた役者なのですが、それを「教授の助手役(ボランティアに来た人や学生)」は知らされずに「実験を受ける被験者(役者)」も自分たちと同じ、ボランティアや学生のメンバーなのだと教えられています。
ですから、真実を知らないのは「教授の助手」役だけで、「教授」と「実験を受ける被験者(役者)」は八百長の実験であることを知っています。

 さらに、この実験の真の目的は「記憶力の実験」ではなく、人が「自分の信じる正義のためにどれだけ残酷になれるか?」なのです。

 しかし「教授の助手」として集められたメンバーだけが、この実験は「記憶力と痛みの相関関係の実験だ」と信じ込まされています。

 次に、実験の内容ですが、「教授の助手役」は「被験者(役者)」が間違った回答をするたびに、「電気の電圧を15Vずつ上げるように」とお願いされていました。三択の中から憶えた事を答える簡単な記憶力の実験です。
 でも、被験者(役者)は適度に正解を答えながら、後半は確実に答えを間違っていきます。
 この時に指示を出す教授は「間違ったら電圧を上げて下さい」「実験のためですから」「未来の科学のためです」「そのためには、あなたの協力が必要なのです」と、この4つのセリフを伝えるだけです。教授は高圧的な態度は取りません。ただ、淡々とこのセリフを伝えるだけです。

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 被験者(役者)は、最初は「え⁉︎ 痛い…」「やめて」「勘弁してくれよ!」「もうこの実験には協力しない!」と発言し、後は「ただ悶絶の表情で苦しむ」、そして電圧が上がり続ける最後には「意識を失う」。
 もちろん八百長ですから、被験者である役者の人には電気は流れていません。役者がリアルに演じているだけです。

 驚いたのは実験結果です!!
 「僕はこんな残酷な実験は続けられない!!」と実験を放棄した「助手」もいましたが、ボランティア、学生さんの7割弱の人が 「命の危険がある」と教えられた450Vまで、「実験の助手という役割」のために電圧を上げ続けました。

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 人は正義のため、科学のため、未来の進歩のためと、「自分が信じた正義」のためには、非人間化が進み、その攻撃される人にも愛する家族や、大切な存在の人がいるからこそ、傷つけられたくないという当たり前の事実を忘れ、ただただ攻撃性が上がるという恐ろしい実験結果です。

 戦争もそうですが、「正義のために」と大義があると、恐ろしく人間性を失っていくのです。

 「私は正しい」と信じた人が、残酷なまでに、正義の鉄拳で、人を傷つけても「自分の正義だから」と思って、罪悪感にさいなまれるどころか、自己の正義に酔って行動を繰り返す心理です。これは脳内麻薬の依存症に依るものです。

 これは今に始まったことではありません。「戦争を終わらせる」と正義の心で、残虐な原爆を静かな街に落としたアメリカの政府も、毒ガス・サリンを造って地下鉄に撒いたオウム真理教にも「間違った社会を一度破壊して理想的な社会を作る(ハルマゲドン)」とゆがんだ正義がありました。

 ここで問題になるのは、正義で怒っていても、怒りの感情を保ち続けていくと、心も体も蝕まれていくという真実です。

 ハーバード大学教授のエルマ・ゲイツの実験では、怒っている人の呼吸をガラスの管を通して急速冷凍すると栗色の沈殿物ができるそうです。それをネズミに注射すると数分でネズミは死んだそうです。ゲイツ博士の計算によると1時間怒っている人の毒素は80人の人間を死に至らしめる致死量をもっているそうです。それは自分の細胞に変容をきたします。ただ、これは試薬に問題があったとも言われています。考えてみて下さい、80人も殺す毒素なら自分自身も即死です。

 でも、どちらにせよコブラと同じ猛毒は、毒素を作る本人にも何らかに影響してしまいそうです。

 この実験によらなくても、最新の脳科学では、怒る人のノルアドレナリンの過剰分泌は、老化を促進させ、不眠を誘発し、免疫を低下させ、肝機能が悪くなり、ありとあらゆる病気を誘発させることが確認されています。

 目に見えないところで、誰かを攻撃するためにやっている行動は、すべての病気の元凶になるのです。想像してみて下さい…誰かの苦しみを想像し、何か行動している(ドアの前でゴミを捨てる、誹謗中傷を書き込む、誰かを殴る、ビラをまく、ベランダで叫ぶ・・・)その人の顔は正義に酔いしれながらも、醜く老いてゆく方向に、心も体も蝕まれて行くのです。

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 ですから、昔から言われているとおり「人を呪わば穴二つ」なのです。

 誰かを攻撃するつもりが、自ら免疫を下げ、老いを促進し、人生を振り返る時、マイナスな感情と日々付き合っていたのだと気づくのです。

 あなたの表情は、どちらの時間が多いですか?

 Which life do you choose?
 Please takes care of your life. IMG_0391

 

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