妹へ

   

 どんな言葉も無力に感じてしまうことがある。

 心理カウンセラーならばなおさら、今ここに苦しみに直面している人に対しては言葉が無力であることを知っているから…

 僕の妹のパートナーが昨年末に癌がわかり昨日天に召された…
 誰に対しても、そっと微笑んで優しく見守る彼であった。
 僕の実父に対しても、仕事をリタイアしたことを気づかって釣りに誘ってくれる優しい義弟であった。
 子供はいなくても仲睦まじい妹夫婦に遠い地から感謝していた兄の僕がいた。

 「短い時間であっても彼は幸せだったと思うよ」「兄はいつも君の味方だからね」
  「彼は亡くなったんじゃなく、次の世界で君が迷わないために先に旅立ったんだよ」
 「思い出はいつまでも失われないから…」
  なんとでも頭に言葉は巡っても、すべての言葉が虚しく感じてしまう。

 言葉は、時間が経たないと力を持たないことも心理カウンセラーとして 痛いほど知っているから。言葉をつむぎ出せても君の悲しみの癒えることを祈るしかなくて…
 スピーディーな時代。すぐに誰でも癒しや前向きになる結果を求めるけど…
 でも、いつか君の心に今の僕の思いが届けばとこの文章を書いています。

 兄妹とは何か?
 可愛い妹が生まれて、兄になり、同じ屋根の下に住み、同じように食事を食べて。時には空気みたいな存在で、時にライバルで、笑い合ったり兄貴風を吹かせてしまったり。

 思春期になった二人は、異性の気恥ずかしさから、お互いに適度な距離を置いたりもしたっけ…

 兄として頼られるどころか、両親のトラブル続きの家庭の中で、目に見えないところで妹の存在に救われていた…

 そんなことに気づいたのは大人になってからだった。
 そんな妹に何が僕は出来るのだろう。何を伝えれば良いのか?

 あの子供の頃のように平気で思ったことを遠慮なく言えたなら…言葉の軽さも知らなかった、あの頃のように…
 大人だからこそ今は簡単に言葉を紡げない。

 きっと、君は愛する彼に出会った頃に戻れればと思っているのかな。
いや、夫が病気になる前に時間を巻き戻したいのかもしれないね。

 ただ、僕はあの幼い頃の君を思い出しています。あの小さかった君が大粒の涙を今流しているのだと思うと、その涙が止まることを兄として願って止まないけれど。妹よ、遠い過去の幼い僕も、今の大人の僕も君と一緒に涙を流しているからね。

 大人として乗り越えよう…妹よ! 

 

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